おまえなんか、訳してやる!

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ディアスポラ

ディアスポラ
一部ネタバレあり。グレッグ・イーガン「順列都市」の感想はこちら
順列都市の現実世界を未来に進めたような設定。これはですねえ、最初の大事件が終わって次のステージに移ったあたりで、ストーリーが進行力を失ったかんじで読み進むのが難しくなりました。

でもそこを越えて物語の大筋が理解できてからは楽で面白かったです。「次のステージ」で語られる内容って言うのは「ワープはできません!」ていうことなんですよ。

この作品世界では宇宙旅行を短縮できるうまい方法が見つからないんです。元素を自在にいじくりまわせる技術はあっても、途方も無い時間をかけても銀河系のごく一部までしか移動できない。ここが素晴らしいところ。

同時に準光速で迫り来る大きな危機が現実のものとしてあるわけです。しかし光速を越えたワープはできない。そのとき知的生命体のとるべき道とは……というのが話の大きな流れ。

タイムマシンの難しさはわりとよく知られているところだと思いますが、たしかにワープも、現代物理学ではむしろその難しさがはっきり分かって来ているのではないでしょうか。できれば本作でもそのへんに踏み込んでもらいたかった気がしますが、よくばりすぎか。

あと難読さ加減について。巻末に用語集があるのを気づかずに読んでました……。こういうのSFファンならすぐ分かるんでしょうか。素粒子物理学に関しては素粒子の訳特集をやったときの知識でなんとかなんとなくついていけたんですが、数学、幾何学はダメダメ。日常的な3次元ユークリッド空間以外を想像するのは難しいです……。これはなんとなくで読み飛ばすしかなかった。

大筋の主人公、ヤチマの発生から運命の選択にかけての始末は、共感とまではいかないのですがしみじみ感動しました。ヤチマ発生のくだりも素晴らしい。意識と言うものの宿命についても考えさせられる物語です。