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夕凪の街桜の国

夕凪の街桜の国

そういえばこの冬、広島に行って(宮島で買った桑のしゃもじは使い良いです)平和記念資料館を見て来ました。

私は説明資料を読むのが遅くてちんたらちんたら進んでいたら、係の人に『じっくり見てくれてありがとう』と言われて気恥ずかしかった。

行かなければピンと来なかったと思いますが、「夕凪の街」の舞台はどこも爆心地に近いです。作中に変な欄干の橋が出てきて平和大橋と後の西平和大橋、そこも十分原爆が落とされた直下と言える所です。目次の見開きには橋とドームが描かれていますが、そのドーム寄りの地点、500メートルあまり上空で原子爆弾が炸裂したそうです。旅行客でも、一度はその空を見上げて「あそこに……」と人工の太陽、100万度の火の玉を思い描くのではないでしょうか。

「ここは爆心地から何百メートル」という空間感覚が作品を読むとよみがえってきて、登場人物がちょっと空を振り返ればその方向に、あの火の玉があったと思ってしまいます。

その空の下に、普遍的な人の感情が物語られるので、その対比に胸がつまります。

ある種ファンタジックな舞台空間と、柔らかなタッチで「なじみやすい」作風なのですが、寓話として切り取れない、今の私たちと地続きの感覚を刻みこまれます。

原爆が遠くなった世代である作者が、自らに刻み込もうとした刻印なのだと思います。