おまえなんか、訳してやる!

どんどん一言で 訳していくサイトです。 今567語くらい。

<ファイル>………“布”おま訳“書類”引用訳

布(ふ)。待て待て、今理由を話してやる。ちょっと長い。座れ。

普通に考えたら“帖(じょう)”だろうと思う。先人の訳、誰が言ったか知らないが、恐らく電算機研究者の訳にも“算帖”というのがある。適訳なので迷った。“帳(ちょう)”でもいい。もともとファイルとは、紐を通して帳面にしたものであるらしい。

パソコン入門時を考えても、人は大概「文章を打込んで保存」という作業から入るものだ。だから文房具の訳語はなじみやすいし“帖”なら文書でなくても“画帖”といった使い方も不自然でない。“帖”も“帳”も、コンピューターのファイルは書き出したり読み出したりする際の記憶単位であるから「ひとまとまりに綴じてある」意味合いを汲んでいるのが良い。

ではなぜそのように筋の通った訳語を捨て、布などという論理性のない言葉を選ぶのか。それは

  • バイナリー帖
  • MIDI

と書き替えてみたところで、さっぱり<ファイル>という感じがしなかったからである。待て待て、まだ聞け。

そんなに「ふ」にしたいのか。ならばはじめから訳出などあきらめれば良いではないかと、そう思われるかも知れない。たしかに

  • HTML布
  • 音声布

とすれば「ふ」の読みで<ファイル>との関連づけを連想しやすいものだ。だがそれは「HTMLフ」「音声フ」と書けば良いではないかと、そう思われて無理はない。しかしまだ、まだ聞いてほしい。

<ファイル>には<データファイル>と<プログラムファイル>がある。<プログラムファイル>とは<アプリケーション>のことだ。今のパソコン環境なら<データファイル>を開くとそれを作成した<プログラムファイル>も同時に立ち上がるのが普通だ。

<ファイル>をエイヤっと「開く」とドロドローン。<データファイル>を見たり書き替えたりするために様々な画面が現れる。まるで忍術の巻き物や怪獣カプセル*1を使ったような、今風に言えばホイポイカプセル*2を広げたようなことになる。

<ファイル>は分割したり、圧縮したりもできる。分割した<ファイル>を画像配信に使ったり、JPEGファイルに圧縮したりする。まったくフニャフニャとした、つかみどころのない、融通無碍な奴である。これを今名付けるとして、はたしてこれは<file>であろうか?

<ファイル>を“書類綴じ”として扱った印象の表現
開く、閉じる、作成する、保存する
<ファイル>を“書類”として扱った印象の表現
編集する、交換する、読む、読み込む、更新する、上書きする
<ファイル>をなんらかの“資材”として扱った印象の表現
圧縮する、解凍する、分割する、結合する、添付する、送信する、配付する、削除する、使用する、再生する、実行する、変換する、埋め込む、共有する、クリックする

もともとデータの集まりなのだから“資材”として扱われるのはある意味当然かもしれない。またパソコンが様々な手段で<ファイル>を扱えるようになる内に、道具として捉える向きも強まったのだと考えらる。いずれにせよ“書類綴じ”ではイメージしづらい場面が多い。

中国では「件」「文件」としていて、日本でもファイルは「〜件(けん)」と数えているが、「件」は上に挙げたような動詞につなぐ際、やや抽象的すぎる嫌いがある。視覚的にイメージできる、資材のようなものが良い。

語源を調べると<file>は<filament(フィラメント)>同様「fil=糸」を語根とする。もちろん現代では「糸で綴じた帳面」から転じて「書類綴じ」「書類棚」といった意味だが、上述のような融通無碍な扱いに耐えるのは言葉の語感が欧米人に与える影響もあるのかもしれない。英語を話す人間にとって<file>はあの文房具そのものだけではなく、フィラリア(filaria、糸状虫)やヒレ肉(fillet)とどこか共通した、頼りない柔らかな印象をもたらす言葉なのかもしれない。

ここは<file>をわざと「糸を紡いだもの」と曲解し、“布”という訳を当ててみる。そういうわけである。



 

*1:ウルトラセブン

*2:ドラゴンボール1984年〜1995年連載。19年前でした。