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美味しんぼ84巻「日本全県味巡り富山編」

一般の人にとっては「まだやってたの」かと思いますが、一部の読者にとっては注目の新刊だった84巻。結論から言えば、まずは復活したと思います。美味しんぼ

インターネットで盛んに「美味しんぼ」が語られたのは3、4年前。パソコン通信時代からのMac信者である原作者、雁屋氏はおそらくこの現象を見ていたはず。マンネリ長寿漫画として名高いこの漫画が、いよいよ惰性の域を越えて「不振」と言える事態に陥ったのはこの時期からだった。

昭和〜平成の奇書、『美味しんぼ』を作品として書評したものは少ない。まあムマムマと読んで愛好するものなので、文芸的な評価には全然耐えないんですが。ネット上の声の多くは、『そうそう!私も変だと思ってました、この漫画』というかんじのツッコミで、十数年来の読者ひとりひとりの思いがインターネットで出会い、共感を呼び、『山岡は軟弱になった。』『中松警部はいつのまにジャガイモ嫌いになったんだ。』『みんなどういう歳の取り方なんだ。』『シャッキリポン。』『副部長を出せばいいと思ってる。』『家族観が古い。』『政治の話はつまらない。』『左翼すぎる。』『いや、雁屋は権力に擦りよった。』『チャーハンは炎であぶらない。』『栗田さん昔に戻ってください。』などの声が爆発した。私も加担してました。

多くは愛情の裏返しで起る発言なのだが、そもそも抗議を受けやすい作品なので間に受けた影響もあってか、ネームはトチ狂いはじめ、連載は不定期になり、シリーズ『日本全県味巡り』はただの郷土料理オンパレードと漫画好きに敬遠され、山岡-雄山の対決構図もいよいよユルユルになり、栗田さんは鬼のようで、副部長には前歯以外の歯が生えてしまった。いまや多くのファンが尻切れを覚悟し、せめて作品世界を壊さないまま終ってほしいと願う悲壮感すら漂っていた。

復調のきざしが見えたのは79巻あたりから。『読者がなんだかんだいいつつ好きなパターン』が編集サイドに伝わったのか、大河ドラマ性をあきらめたようなマンネリ路線が復活。これが復調というのもすごいが、栗田ゆう子が主張をやめ、「あら。」「まあ。」「そうだったの。」とテンポ良く話の進行役に徹している効果が大きい。83巻では『豚肉でガンが治る』すごい展開もあり、古い読者にウケが良かった。

残る問題は、取材報告のまんまでドラマとして成立していない『日本全県味巡り』。作画の花咲アキラ氏の故郷*1で、県ピーアール冊子版の美味しんぼも出ている「富山県」とあって、その出来栄えで今後を占えると、私を含め数人が固唾を飲んでいた(一部のファンてそんな一部かい)。結果は最初に述べた通りで、県協力の取材で総花的な感はいなめないが、それはそれで楽しく読めるし、王道でまとめられていて、安心できる内容(←もうこういう心境)。

おそらく難しい制約の中で連載されている美味しんぼ。多くは望みません。ここ2、3年で買うのをやめた方には、82巻あたりからオススメしてみます。


*1:画像は花咲アキラ氏がデザインした故郷・新湊市のキャラクター、カモンちゃん