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ウィキペディアをウィキって呼ぶのは「なんの様なもの」なのか

ウィキ(Wiki)という大勢で文書を編集できるシステムを使って作られている百科事典「ウィキペディアWikipedia)」を、省略して「ウィキ」と呼ぶことについての議論があるんですね。(→途中を飛ばしてこの記事のまとめにジャンプ

“物凄く怒られ”がちなのは、受動喫煙問題と似ていると思います。タバコが吸われる環境は吸わない人にとってはメリットがなくて害があるだけ、という状況と同様に、ウィキペディアをウィキと呼ぶ環境は(健康を損なうことはありませんが)「ウィキペディアをウィキと言わない人」にとってはメリットがなくて害があるだけです。

ウィキペディアが「ウィキ」になってしまうと、今まで「ウィキ」で済んでいたものを「ウィキシステム」「ウィキツール」「ウィキページ」などと言い分ける必要が出てきます。多くの意味が混在して誤解が起こりやすくなるのもコスト増です。そこへ来て「ウィキペディアをウィキと呼ぶ害」に「無自覚」な人に会うと、強い怒りを感じる仕組みではないでしょうか。。

ウィキに対する思い入れも多少は関係するかもしれませんね。思い入れで言うとわたしは「はてなダイアリー」や「はてなダイアリーキーワード」を「はてな」と省略されるとモヤモヤ〜っとした気持ちになります。でもその人にとっては、Googleなんかで検索して出てくる「はてなダイアリー - ○○とは」っていうページが「はてな」なんですよねえ。

さて、この議論にたびたび出てくる「ウィキペディアをウィキと略すのは○○を××と呼ぶようなものだ」という指摘なのですが、ちょうど良い例がほとんど見つかりません。今のところわたしがうなずけたのはゴキブリホイホイを、ゴキブリって略すようなものだ*だけです。

そこでちょうど良い「○○を××と呼ぶようなもの」を考えつつ、そのような略語がそのまま定着した例はあるのかしら、ということを考えてみます。

ちなみに語源話。ウィキは「ウィキウィキ」がハワイ語で「速い」を意味し、ウィキペディアの「ペディア」は英語で百科辞典を意味する「encyclopedia」から。百科事典(Encyclopedia)とは、ギリシア語のenkyklios(円環をなす)とpaideia(教育,訓練)の合成語から成り、本来の意味は〈知識の環〉〈体系的教育〉となっている*そうです。

ウィキペディアをウィキと略す」ことによる問題をまとめて見ますと

  1. 別の種類のものを指すことになってしまう(Wikiは基本的に『システム』、Wikipediaは基本的に『百科事典』)
  2. 派生した言葉が、派生源の言葉と同じになってしまう
  3. 通名詞がある固有名詞の意味を兼ねてしまう

となるでしょうか。

1と2を合わせた現象としては「蕎麦(そば)」を連想しました。蕎麦自体は植物・食材です。そして昔は蕎麦の食べ方といえば「そばがき」のほうがメジャーだったそうですが、江戸時代に「そば切り」が大流行して以来、「そば」というだけで「そば切り」を意味する現在に至っています。「そば」と言われたとき、それが食材なのかそば切りなのかは状況・文脈で判断するしかありません。

1と3の両立が難しいです。会話の中でキリンビールのことをビールと呼ぶのはいくらでもあるわけですが、キリンビールはビールですから意味が通じます。しかし1のように意味が変わるという条件がセットとなると……。

また、有名な固有名詞が普通名詞のようになってしまうという例はホッチキスとかエレクトーンなどを思いつくんですけども、普通名詞がある固有名詞の意味になってしまうというケースはあるでしょうか?

あ! 「紫式部」を「式部」と略すのはどうでしょうね。紫式部は式部大丞本人じゃないから。ああ、でもいったん「藤式部」っていう女房名があるのか。ちょっと違うかな……。徒名や隠語もこの場合とは違いますよね。

うーん、思いつきませんでした……。どうぞ1・2・3の条件をクリアして生き残っている名詞をご存知でしたら教えてください。

では1・2・3を合わせた「〜と言うようなもの」例をわたしなりにひねり出してみますと……

カップヌードルカップと略すようなもの」 コメント頂いて考え直しました

「TV(テレビ)チャンピオン」を「TV(テレビ)」と略すようなもの。

でお願いします(何を)。カップとウィキじゃちょっと認知度が違い過ぎて苦しいけど……。

あと、じゃあ何て略せば良いのだという問題も残りますが、それはえー、省略しにくい言葉もありますよねということで……。(カップヌードルってカプヌ?……google:カプヌありました少し)

わたしは「ウィキペディア」は時間が経つにつれ「ウィキペ」に落ち着いていくんじゃないかと思います。でも「ウィキペディアで調べる」=「ウィキる」は残ってもおかしくないですね。

(追記)まとめ

色々頂いたご意見も含めて、ウィキペディアをウィキって呼ぶのは何が問題なのかをまとめてみましょう。

  1. 「ウィキ(Wiki)」という言葉の意味に「ウィキペディアWikipedia)」が入って来てややこしくなった。
    • 難しい言葉で言ってみると、名前空間「ウィキ」における「名前の競合」が激しくなった。(参考:名前空間 - Wikipedia
    • 実際のもめ事は、ウィキに対する文化度に差がある人(ウィキをよく知っている人と知らない人)同士で起こる。
  2. 「名前の競合」自体は、よくあることである。
    • 「ライト」に「照明」と「野球の右翼手」の意味があるように、名前の競合はいくらでもある。
    • 名前の競合による誤解や混乱のリスクはたしかにある。
    • しかし名前の短さや語呂の良い省略には利便性もある。
    • 普通はリスクと利便性を天秤にかけ、意味が通じるように状況によって使い分けられている。
  3. ウィキペディアをウィキと略すのは、比較的ややこしい省略ではある。
    • ウィキペディアをウィキと略すのは「普通名詞『○○』を利用している固有名詞『○○ナントカ』」を、「普通名詞『○○』」と略すということ。
    • 通名詞○○を利用している「○○ナントカ」を「○○」と略す例としては「エレキギター」→「エレキ」、「蒸気機関車」→「蒸気」などがある。
    • 通名詞「○○」を含む固有名詞「○○ナントカ」を「○○」と略す例としては「朝日新聞」→「朝日」、「クロネコヤマトの宅急便」→「クロネコ」などがある。
    • 両方を兼ねている例は少なく、日清の「カップヌードル」だけを「カップ」と略すようなものだと言える。
    • よって誤解や混乱のリスクが比較的高いと予想される。
    • しかし状況を判断すれば結局は使い分けが可能で、正しいとか間違っているといった結論は出ない。どの程度適切な略語かどうか、という程度の問題にしかならない。
  4. やたらとモメるのはハラスメント問題だから。
    • 以前からウィキという言葉に馴染んでいた人にとって、今回の名前の競合で予想される「害」は、言葉の省略で受ける「益」よりもずっと大きい。だから「嫌がる」。
      • 「ウィキ」という言葉を使う際に、ウィキペディアのことではない」ことを伝える必要があるかもしれないと懸念しなければいけないという負担が大きいだろう。
    • ウィキペディア」を「ウィキ」と省略することは、「害」よりも「益」のほうが大きいと感じる人もいる。
    • でも嫌がる人がいるので、結局ハラスメント(嫌がらせ)の問題である。
      • 「嫌な人」は、最終的には「自分がどのように困るのか」を訴えれば、この問題の核心を伝えられる。
      • 「嫌じゃない人」は、人によっては嫌がられるというリスクを意識しながら「ウィキ」と言えば良い。
      • どちらが正しいかは結論が出ない。どちらが合理的であるかも、これからの成り行きにも左右され、やはり結論しにくい。
    • ハラスメント問題は、限りなくモメることができる
      • 利害の不均衡なので、話し合いで解決できないことが多い。
      • 議論の攻撃先が「この程度の問題で人を厳しく非難する偏狭な性格」や「ハラスメントであることに気がつかない鈍感な人格」に移っていきやすい。
      • 人格の否定ということになると、殺し合いにまで発展することができる。
        • 世に言うウィキ門外漢の変である。
  5. 啓蒙運動も加わってくる。
    • 「嫌な人」には、ウィキペディアをウィキと略す行為が「一般に広まると歯止めが利かない」という危機意識が働きやすい。
    • 積極的な「Wikiって略すな」運動に発展する。
    • どうなるかは成り行き次第である

以上ポイント整理でした。「ウィキ」の意味についてはessaさんの考察記事wikiクローンのことを「ウィキ」って言ったら物凄い怒られたが詳しかったのでそちらもどうぞ。ではでは……。